・横断歩道が続いている。長い前髪と、左眼を覆う眼帯が、踏切、ビル、標識、バス停、薄青い街の線を、靡かせている。 ・白いワンピースを纏った少女が、呼吸器を外して歌い始めた。信号が変わった。 閉じる。風とブ ックマーカー、 あたらしい、痕 包帯の端をくわえて 、鳥。白血球が微笑 のまま固まっている ベッドの翳でひしめいて いた夜の残滓が、蒸発す るから。ナース、コール 病室のシーツ。だれも、なに も教えない。遠鳴りするスト レッチャー、点滴のおちる音 侵食してくるインクの潦に、追い つめられた文字が、ちいさな手を のばしながら、すくいをもとめて つめたい融解、ゆりかごの。タイトル は、すでに闇が連れ去っている。陽を 、うけながら。燃えるように、凍える ・点滅する青。哲学書の表紙のような、誰も泳いでいない水へ潜って、嘘を吐く。人間は、体温を失くすと死ぬ。 ・赤になる。逃げ惑った大人たちの顔が次々に落下していく。身体だけ残った者たちは、前後に、左右に、ゆれながら、無言の叫びを完成させていく。 ・両腕の傷が酸素を欲しがって甘えている。滴るピンク、少女は駆けて、アスファルトに描かれる別れを見送り、海へ向かった。 「世界中が、よんでいる」 きよらかな金属、いとけない殺意、めくれかえるイコライザー 「からだの、なか」 胎動する熱、ぬれた真空管、エフェクターとしての純潔 「やぶいて、はいって、つきうごいて」 ひろがるトレモロの波紋、電気信号のゼリー、いたいけな過呼吸 「わたし、文学に、おかされている」 back |